『リユース』 5/5

記憶がある程度戻り、普通の生活が徐々にできるようになった幹夫。そんな折、入院生活を終え自宅へと戻る運びとなった。脳を検査していくうち、まだ記憶があった頃に思い入れがあった物に触れるとどんどん記憶が戻っていくことが分かった。
バラシ屋トシヤ 2023.04.14
読者限定

[平日夕方に小説が届くニュースレター。月曜から金曜の全5話で完結する奇妙な物語です。土曜日には、一気読みできる記事を配信します。メールドレスを登録いただくと毎号メールで届くので、続きを見逃さずに読むことができます。今日もお疲れ様でした。一日の終わりに一話いかがですか?

 記憶がある程度戻り、普通の生活が徐々にできるようになった幹夫。そんな折、入院生活を終え自宅へと戻る運びとなった。脳を検査していくうち、まだ記憶があった頃に思い入れがあった物に触れるとどんどん記憶が戻っていくことが分かった。記憶障害は何かがきっかけで治ることがある。人それぞれだが、匂いや音楽、風景。時間が解決してくれることもある。幹夫の場合は思い出に触れることがそのきっかけになっていたのだ。

 自宅へ帰ればそのほとんどの記憶が戻るだろうと医者は帰宅を許可した。しかし幹夫は自宅へ戻るのが怖かった。入院生活を続けていくうちに断片的に思い出していた、妻の記憶。これ以上思い出して悲しい気持ちになりたくないと恐れていたのだ。

 自宅マンションがある駅を降りた時点で幹夫の目にはもうすでに涙が浮かんでいた。一歩歩くごとに一つ一つの思い出が蘇ってくる。見慣れた街並み、懐かしい風、幸枝と歩いた散歩道。心が壊れそうなほどの悲しみが幹夫を襲ってきた。

「なぜ俺はこんな大切なことを忘れていたんだ」

この記事は無料で続きを読めます

続きは、842文字あります。

すでに登録された方はこちら

誰でも
『そばにいるよ』 ※一気読み
読者限定
『そばにいるよ』 5/5
誰でも
『そばにいるよ』 4/5
誰でも
『そばにいるよ』 3/5
誰でも
『そばにいるよ』 2/5
誰でも
『そばにいるよ』 1/5
誰でも
『誘い水』 ※一気読み
読者限定
『誘い水』 5/5