『そばにいるよ』 4/5
[平日夕方に小説が届くニュースレター。月曜から金曜の全5話で完結する奇妙な物語です。土曜日には、一気読みできる記事を配信します。メールドレスを登録いただくと毎号メールで届くので、続きを見逃さずに読むことができます。今日もお疲れ様でした。一日の終わりに一話いかがですか?]
「大丈夫大丈夫!守ってあげるから」
どうやら家の方向が一緒だったらしく、店長が家まで送ってくれることになった。
「すみませんありがとうございます」
西野は怖くて怖くて仕方がなかった。今までこれほどまでに他人に悪意を向けられたことはなかった。地元にいた頃も生活の中で特に大きなトラブルを起こしたことはなかったし、比較的みんなに好かれて生きてきた。相手は一方的で、理不尽で、そして話の通じるような相手だとは思えなかった。アルバイトを辞めてしまいたい思いと同時に、そんな理不尽に負けたくないという思いも少しはあった。第一バイトを辞めたから、変えたからといって安全になるわけではない。
「まあでも、あの人きっと口だけで何か行動に移すとは限らないから」
帰り道、店長は優しい顔で西野にそう話してくれた。
家に帰って早速、今日の出来事を田島に電話で相談した。田島はこの前話したことが実際に起こりうるような状況になったことに驚いた。しかしすぐに決意を固める。
「これからはバイトのシフトは俺にも教えてくれ。帰り道は俺が家まで送るよ。大丈夫。俺がそばにいるから」
その言葉を聞いて西野は少しだけ安堵し、そしてようやく身体の震えが止まった。
「ありがとう」
私には田島君がいる。きっと大丈夫。そう思うと西野はすんなり眠りにつくことができた。
西野はその日夢を見た。あの映画の中へ入り込んだ自分と田島。あの妄想の続きだった。ずっと幸せに暮らしていた二人を突然の悲劇が襲う。この物語は最後男が病気で亡くなってしまうのだ。ベットに横たわる田島を見て西野は叫んだ。
次にシフトに入ったときの店の対応は完璧だったと思う。あの男が現れるかもしれないことを考慮して1番レジに店長、2番レジに西野。常に店長が西野の様子を伺うことのできるポジションにつく。幸い勤務中にあの男が現れることはなかった。
帰る支度をし、店を出ようとする西野を店長が呼び止める。
「西野さん!ちょっと待って。今日も送るから」
「店長ありがとうございます!でも今日は大丈夫です。これからは彼氏が送ってくれることになったんです」
西野は少し照れ笑いをして店長に送るのは不要だと伝えた。
「ああそうかそうか!それはよかった。それじゃ安心だね、いいなー若いって」
店長に茶化されて西野は更に顔を赤らめた。
店を出てすぐの駐車場の角に田島がいた。笑顔で手を振っている。西野は今日一番の笑顔で田島に駆け寄った。
帰り道、西野は最近見続けている夢の話をした。田島があの映画のように亡くなってしまうところでいつも目が覚める。今朝は特に気分が落ち込んでいたと聞き、田島は西野の手を握った。
「大丈夫だって。前も言ったろ?ずっとそばにいるって」
幸せそうに手を繋ぎ歩いて行く二人。その背後に凶器を持った人物が息を顰め後をつけていた。
続く
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