『誘い水』 4/5
[平日夕方に小説が届くニュースレター。月曜から金曜の全5話で完結する奇妙な物語です。土曜日には、一気読みできる記事を配信します。メールドレスを登録いただくと毎号メールで届くので、続きを見逃さずに読むことができます。今日もお疲れ様でした。一日の終わりに一話いかがですか?]
それからというものSNSの運営について書かれた記事を片っ端から読んだ。投稿は毎日同じ時間に。21時が一番人々がSNSを眺めているらしい。今の時代写真は〝ブラフ〟の塊だ。加工をすれば何物にもなれる。フォロワーさえ増えてしまえばこっちのものだ。うまくブラフを使いこなし人気を獲得する。私が投稿するコンテンツ、その全ては誘い水なのだ。
私の思惑は気持ちいくらいにその通りになっていった。徐々にフォロワーは増えとうとう目標としていた1万人を超えた。それと同時にアンチと呼ばれる人間も増えてきたが私は負けない。今までどれだけの逆境にいたと持っているのか。PRの仕事の依頼もどんどん増えてきたがあくまで私の目標はアイドル。目先の金には目もくれず、大きな仕事が舞い降りるまではアルバイトをこなし続けると誓っていた。
フォロワーが3万人を超えたころ、今まで私を馬鹿にしていた友人から連絡がくるようになった。「私は成功すると思ってた」などという戯言もちょくちょく耳にするようになった。それでも私は決して浮かれたりしない。そう、子供の頃からの夢を叶えるため。自分の人生を歩み続けるため。
私がちか姐というアカウントを作り1年が経とうとしたある日芸能事務所のスカウトマンからDMが送られてきた。
〈私芸能プロダクションのBRTSの田所と申します。この度ご連絡させて頂きましたのは、是非我が社所属のタレントになって頂きたいからです。毎日21時に投稿されているところにプロ意識を感じました。そして私自身ちか姐様のいちファンとして21時が楽しみになりました。さらに活躍されるためのお手伝いをさせてください〉
〈田所様。この度はご連絡ありがとうございます。ちか姐です。いつもご覧いただいているとのことでとても嬉しいです。私もそろそろ事務所の所属したいなと考えていたところだったので驚きました。是非一度お話をお聞かせください〉
〈ちか姐様。お世話になっておりますBRTSの田所です。返信ありがとうございました。つきましては来週のどこかでお時間いただけますでしょうか? どこかのカフェかなんかで一度お会いいたしましょう。〉
〈ありがとうございます。来週ですと水曜日でしたら夜にはなってしまうのですが空いております。カフェでとのことですが、リモートなどではダメでしょうか?〉
〈田所です。そうですね、詳しくご説明させて頂きたいのと、今後の契約などもスピーディーに対応できるかと思いまして。無理にとは言いませんが一度直接お会いしておきたいです。都内におすみだと思うので、ちか姐様の最寄りの駅までお伺いいたします。〉
〈承知いたしました。ではカフェでお会いしましょう。仕事が終わってからになってしまうので19時に東中野の駅前のカフェで待ち合わせいたしましょう。〉
〈承知いたしました。ご無理を言ってしまい申し訳ございません。当日お会いできるのを楽しみにしております。それでは引き続きよろしくお願いいたします。〉
〈こちらこそ申し訳ないです。私も楽しみにしております。よろしくお願いいたします。〉
「かかった」
ここまでうまくことが運ぶとは驚いた。
つづく
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