『わけあり物件』 5/5
恐怖とは裏腹に村本は顔に笑みを浮かべていた。
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〈扉が閉まる衝撃で部屋の天井が軋んだ。明らかに外と佇んでいる空気が違った。嫌な気配が全身を包む。村本はやっと思い出した。ここはわけあり物件なのだ。
カップラーメンの容器や水のペットボトルが散乱する部屋。一つだけある本棚、そこに入りきらずに積み重なった本。机の上には灰皿に山ほどのタバコ。そしてこの部屋にはおよそ似つかわしくない最新型のノートパソコン。
「若林さん……」
若林はこんな場所でたった1人でただ作品と向き合い続けていたのだ。作品を生み出すためにこんな場所で一人、全ては傑作を生み出すために。
パソコンの電源を入れる。不用心だがパスワードを設定していなかったことに、このときは助けられた。
「これだ……」
村本は原稿が入っているであろうファイルを見つけ開いた。薄暗い部屋で、気味の悪い単語の数々が並んでいたが村本にはその一字一字が明るく輝いて見えた。若林が生き絶えるその時まで書いていた作品。村本は一度深呼吸してから読み始めた。〉
この小説にはついさっきこの小説を読み始める村本が描写されていた。