『わけあり物件』 1/5
[平日夕方に小説が届くニュースレター。月曜から金曜の全5話で完結する奇妙な物語です。土曜日には、一気読みできる記事を配信します。メールドレスを登録いただくと毎号メールで届くので、続きを見逃さずに読むことができます。今日もお疲れ様でした。一日の終わりに一話いかがですか?]
編集者の村本は担当している作家の若林俊明に深夜2時にファミレスに呼び出された。入り口を入って右奥の窓側の席が若林の定位置。
「村本さん、いい物件見つけましたよ」
肩まで伸びたロン毛に無精髭の男には似つかわしくない、生クリームがこれでもかというくらい乗ったパフェを口に運びながら若林はそう言った。
「若林さん勘弁して下さいよ、前回もそんなこと言ってたじゃないですか」
「今回は凄いんだって。この間の物件とはレベルが違うんだよ」
「だからってこんな夜中に僕を呼び出さなくても……」
若林は言わずと知れたホラー作家で、出される書籍は全てベストセラー。映画もこれまでに二本公開されるなど超がつく程の売れっ子だ。
「全く……で今回はどんなわけあり物件なんですか?」
「村本さん、ちょっとこれ見てよ。」
若林が見せたのはスクラップブックでそこには古いものから新しいものまで丁寧に新聞を切り抜いた記事が貼られている。
「世田谷区連続不審死……ああこれニュースで見たことありますよ。なんでもこの古いアパートのある部屋に住んだ人が連続して亡くなって……その全員が心臓発作という……ってまさか」
「これさ気持ちい悪いニュースだよね? 細かい住所はニュースで公開されてなかったんだけどね……古い知り合いが独自のルートで調べてくれてさ」
若林は次の作品では今までと違った新しい挑戦をしようと考えている。それは自らの実体験を元にしたホラー小説である。そのためにここ数年の間何度も若林はわけあり物件、いわゆる事故物件に移り住んでいるのだ。だがそう簡単に怪奇現象なんてものは起こらない。
「もう引っ越すんですか?つい二週間前じゃないですか、今の部屋に住み始めたのは」
「なんかこう……ゾッと来ないんだよ今の部屋は。頼む!傑作を書く為なんだ。協力してくれ!!」
若林はこと小説においては天才的だが、実生活となると別で引っ越しの手続きですら村本頼りだ。住んでいる物件に飽きるとすぐにまた別の物件を探し、その度に村本に連絡をよこす。
「わかりましたよ……その代わり傑作頼みましたよ」
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