『リユース』 2/5
[平日夕方に小説が届くニュースレター。月曜から金曜の全5話で完結する奇妙な物語です。土曜日には、一気読みできる記事を配信します。メールドレスを登録いただくと毎号メールで届くので、続きを見逃さずに読むことができます。今日もお疲れ様でした。一日の終わりに一話いかがですか?]
同じような風景が続き、本当に方向が合っているのかと心配になってきた頃、青と黄色が特徴の大きな建物が目に入った。行きのバスでも見かけたのを覚えている。どうやら方向は合っていたらしい。
平日の夕方だというのに、その店の駐車場には多くの車が並んでいる。店の前に掲げられた『お売りください』と書かれた旗が、車の勢いで大きく風に煽られている。店の壁には『パソコン』『オーディオ』『カメラ・時計』『ゲームソフト』『DVD・CD』『楽器』などの文字。どうやら買取、そして販売しているようだ。リユースショップとでもいうのであろうか。
幹夫はその店に、何か惹かれるものを感じ寄ってみることにした。入り口を抜けると中古品特有の匂いが鼻にまとわりついたが不思議と嫌な感じがしない。大きな音で特徴的なBGMが流れている。店内は思いのほか広さがあり、商品の種類ごとに場所がブロック分けされていて想像よりもすっきりとしている。商品が並べられたラックが壁の代わりとなり、店内にどのくらいの人がいるのか把握できない。駐車場の様子から多くの人が店内にひしめき合っていると思っていたが、周囲に気を取られることなく店内を物色できるようだ。すれ違う人のほとんどが幹夫と同い年くらいの中年の男性客で、そのほとんどが一人で来ているように見受けられた。一人一人が真剣な顔で何か商品を探し選んでいる。
一通り店内を見まわした幹夫はとあるコーナーで足を止めた。そのコーナーの入り口には大きく『JUNK』と書かれている。どうやら動くかどうかわからない動作未チェックの品が格安で販売されているようだった。ずらっと並んだ青い箱にこれでもかと言わんばかりに、ゲームソフトやCDなど多くの商品が詰め込まれている。皆ずっしりと重いその青い箱を器用に胸や膝で支え、中に入っているものをパタパタと物色している。いい大人がまるで宝探しでもしているように目を輝かせていたのがおかしかった。
『動かないポータブルミュージックプレイヤー』『前の持ち主の名が書かれたゲームソフト』『ケースが割れたCD』そのほとんどが興味のない人間にとってはゴミのように感じられてしまうかも知れない。幹夫は棚の上に置かれていた一つのカメラが気になった。動作未チェックと書かれているが、見た目にはどこも壊れているようには思えない。値札を見ると4300円と記されている。ネットの中古品の相場よりもかなり安い値段設定だ。カメラなんて趣味はなかったが、見ているだけで欲しくなるのだから、こんな時代になっても実店舗が繁盛するわけだ。幹夫はカメラを買うことにし、そのままレジへ向かおうとした。だがその瞬間、目の前が明るく光り輝き、幹夫は瞼を閉じる。
「うう……眩しい。これは……もしかして?」
幹夫の瞼の裏、いや頭の中にまるで映画でも見ているように映像が流れてきた。
青くどこまでも続く空が遠くで海とつながり広がっている。海水浴場の類ではなくどこか田舎町の海辺。どこからともなく若い男女の声が聞こえてくる。
「写真を撮らせてくれないか?」
「いやよ、恥ずかしい」
男はカメラを構えるがなかなか女はこちらを向いてくれない。白いワンピースに大きな麦わら帽をかぶり、そこから長い黒髪が流れている。
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