『誘い水』 2/5
[平日夕方に小説が届くニュースレター。月曜から金曜の全5話で完結する奇妙な物語です。土曜日には、一気読みできる記事を配信します。メールドレスを登録いただくと毎号メールで届くので、続きを見逃さずに読むことができます。今日もお疲れ様でした。一日の終わりに一話いかがですか?
まず初めにするのは獲物探し。芸能事務所を立ち上げるわけではないのだから本当にアイドルになり得そうな人物を探すわけではない。自分の好みと〝ブラフ〟が通じる絶妙なラインを見極めるのだ。候補はたくさんいる。それほど自撮りをネットにあげる女は増えてきた。ターゲットは常に10人前後。それが俺が管理できる限界数である。その中でも最近のお気に入りの女がこのSNSのフォロワー数が3万人弱いる〝ちか姐〟である。ちか姐は際どい写真こそ投稿しないがその愛くるしい童顔と服の上からでもわかるボディーのギャップで人気を得ている。その見た目とは裏腹に性格は負けん気が強くていじっぱりで一番ちょうどいい。この間もアンチコメントに反応し、コメント欄でだらだらと争った挙句にブロックし、それでも腹の虫が治らなかったのかスクショしたコメントを晒し賛否を呼んだ。こういう女こそ目先の成功に飛びつく。とにかくSNSで人気を博す人間の類は、それ自体が〝仕事〟だと言いたがる。家族や友人に散々言われてきたのだろう。「あんなのは仕事じゃない」だの「芸能人気取り」だの。
その弱みにつけ込み誘い込む。まずは架空の芸能事務所のスカウトマンになりきるところから作戦はスタートする。DMは基本的にはテンプレである。『私芸能プロダクションの○○と申します。この度ご連絡させて頂きましたのは、是非我が社所属のタレントになって頂きたいからです。』などと送る。プロダクションは大手すぎず、しかし適当ではなく実在する事務所をチョイスする。こう言った類のDMがひっきりなしに来ていることが予想されるので、烏合の衆に埋もれないよう、その後の文言にあらかじめ投稿をチェックしそれらを反映した言葉を付け加える。
例えばちか姐の場合は毎日21時に決まってその日の日記と共に写真を一枚あげる。21時に投稿するのはその時間帯が一番SNSを開いている人間が多くいて、バズりやすいと言う記事を読んだからなのだろう。大したことではないがちか姐なりのプロ意識である。
DMの文言に『毎日21時に投稿されているところにプロ意識を感じました。そして私自身ちか姐様のいちファンとして21時が楽しみになりました。さらに活躍されるためのお手伝いをさせてください』とテンプレに付け加えるだけでこのメッセージは実直に自分自身に向けられているんだと伝えることができる。呼び出してしまえばあとは運試し。少しずつ甘い汁をまき、それに乗ってくるのを待つだけ。会うところまで漕ぎ着けられる確率は約70%、そこから関係を迫り乗ってくるの確率は20%。まあ成功することの方が少ないが悪い数字ではない。もしもその企みを晒されるようとも名前も事務所もアカウントも全てブラフ。猫も杓子も複数のアカウントを作り放題なのが今のSNSの現実である。
「さて送信っと……」
果たしてちか姐は乗ってくるのか?
つづく
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